大嫌い、だからキスして
「あんたなんて大嫌いよ!!!」
「ふうん、あっそう。」
「…何よ、その反応。」
「だって俺、彼女できたもん。」
「−え?」

 なんで、なんでなんでなんで!とあたしの心が叫んでいるのが聞こえた。
彼はもうあたしだけのものでなくなったことに、恐怖さえ感じた。

「−へえ、彼女できたんだ。良かったじゃない。」
「うん、それが可愛い奴でさ、いつもツンツンしてるんだよ。ま、お前ほどじゃないけど。」
「ふんっ。勝手に言ってなさいよ。」

 私は、彼の嬉しそうな顔を見て、自分が恥ずかしくなったからなのか…
この場から離れようと走った。
「あ、ちょっと…待てよ!」
彼の声が、私の胸に響いたまま残った。

「彼女できたもん…か。」
私は一人、机に顔をうずめながら呟いた。
「なーに落ち込んでるのっ?」
「…ああ、私の初恋は終わったのよ。」
私は、暗いトーンの声にして友達に気持ちを伝えた。

「…もしかして、アイツの事?」
おもいっきり図星だ。私は、顔をふっと赤らめてコクンと頷いた。

「でもアンタさ、素直に気持ちを伝えるタイプじゃないじゃん?告白するなんて思わなかったよ。」
「ううん。あたしは告白してない。」
「え?じゃあ…「アイツから言ってきたの。」
「へえ、どんな感じに?」
「だって俺、彼女できたもん。…だって。」
私はわざと彼の真似をして言った。友達はツボにはまったらしく、しばらくは笑い声が絶えなかった。
「最高、アイツにソックリだよ、その声!」
「うん…あたし、本当にアイツの事好きだったのかな、今は憎しみしか残ってないよ。」
「…たぶんさ、私の推測だよ?」
「えっ?」
私は、首を傾げた。

「アイツだって、アンタとはりあうくらいのひねくれものでしょ。」
「ちょっと、あたしは別にひねくれてなんか…「いいから聞いて。」
「だからさ、アンタ達が両思いになるには、どっちかが正直になるべきだと思うのよ。」
「え?おかしいよ、ソレ。アイツにはもう彼女がいるんだよ?」

「はあー。」
 友達は、大きくため息をついた。私もその流れでため息をつきたくなるほどのものだった。
「もういいわ。私がとにかく言いたい事は…」
「こ、事は…?」
「とにかく告白すればいいのよ!」
「え、ええ〜?」
「いいからっ。ーじゃあ私は彼氏と帰らなきゃ♪じゃあね!」

「そ、そんなあ〜…。」

いきなりそんな事はできるわけないと決めた私は、彼に会わない為にいつもとは違く一人で帰る事にした。

「好きなんてー、好きなんて言えるわけないじゃないっー。」
「何が?」
「へっ?…ひぃっ!」
息が止まりそうだ。何故なら目の前に彼がいるからだ。
「ねえ…彼女いるのに、なんで一人なの?」
私がそう聞くと、彼は顔を少し赤らめて、お前こそ、と言い、
「さっき、好き好き言ってたけど、告白するんだろ?」
と聞いてきた。…告白の相手がその本人だなんて、彼は思うよしもないだろう。

なんとなくの流れで、私たちはいつも通り一緒に帰る事にした。
「…大嫌い。」
私はいつもとは違うトーンで呟いた。
「俺だってお前の事嫌いだよ。」
「じゃあ好き。」

「「え?」」
自分の中で呟いたつもりだったが、彼に聞こえていたようだ。
私は、夕焼け色に染まった体を、バレないように手で覆った。

「−何、今の。ちょ、何とか言えよ。」
こそっと彼を見たら、彼も全身が夕焼け色に染まっているようだ。
自分の事を棚にあげてみたら少し元気がでたから、立ち上がって堂々とすることにした。

「だーかーらっ、好きだって言ってるの。」
「は?」
…言って後悔した。今すぐ逃げ出したい。
「…でもアンタの事嫌いだもん。」
「っ俺だって嫌いだよ。」

「だから…。」
「だから?」

私は一つ深呼吸して、緊張しないように彼の袖を掴んだ。
「−キスして。」

その後、彼のウソがばれたが、私達は付き合うことになった。




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