様への提出作品
夏休みの特別

「よし、ついたぞ。」
そう言って父は車のエンジンを切り、鍵を抜いた。
私達は、わーい!と喜び、急いでドアから飛び出した。
「やっと外の空気が吸えたー!」
私はそう言って喜び、兄はそんな私を見て頷いた。父さんと母さんはドアを勢いよく閉め、鍵を閉めた。
「一年ぶりのお婆ちゃん家だな。」
兄はそう言って笑った。
「お婆ちゃん、変わってるかなあ。」
そう私が悩んでいると、母は
「紗枝よりは変わっていないわよ。」
と、微笑んだ。私は、そうかなあ。と嬉しそうに頬をかいた。

 ピンポーンと、チャイムを鳴らした。
すると、祖母は、嬉しそうにドアを開けてくれた。
「こんばんは!」
一家全員でそろえて言うと、祖母は、こんばんは。と挨拶し返した。

 私の家とお婆ちゃんの家は遠いから、会いに行けるのは一家全員長い休みがある「冬休み」と「夏休み」しかない。
そして、「夏休み」は父方の祖母の家に行き、「冬休み」は母方の祖母の家に行くのだ。
だから、私がおばあちゃんに会うのは今日で、約一年ぶりという事になる。

 祖母は、全然変わっていなかった。
そして、祖母は私が変わっていた事に驚いていた。

「お、紗枝ちゃん。こんばんは。」
後ろを振り返ると、親戚の叔父さんがいた。
「はい、こんばんは。」
「紗枝ちゃん、身長は変わったけど、雰囲気は一年前と同じだなあ。」
「そうですかね?」
「ああ。まだアイツ等と一緒に遊んでいても大丈夫なくらい。」
「そ、そうですか…うう。」
「子供だからさ、まあそういう性別の事は気にするなよ。」
「そうですねえ…」

 そう、アイツ等…すなわち、父方の従兄弟は、私以外全員男子なのである…!
少々困ってはいるが、それでいいのだ。私以外の女性がいたら、従兄弟の信夫は私よりも他の子を見るからだ。

「じゃあ、そういう事で…遊んできな!」
叔父さんは、ドンッと強く私の背中を押した。
「おっとっと!!」
勢いがよく、私は倒れた…と思ったが、頭が床に着く前に腕が床に着いたので、ギリギリ転ぶような事は無かった。
「ああ、スマンスマン。」
「ぶーっ!」
私はそうふてくされて、従兄弟達が集まる部屋に走って向かった。

「元気かーい!」
私がそう言って部屋のドアを開けると、やはり…兄を含めた従兄弟達はポータブルゲーム機で通信対戦をしていた。
「アンタ等ねえ…何従兄弟全員集まったのにゲームなんかしてるんだよ…。」
「全員集まったからこそ対戦だろう!?」
「何で?」
「ゲームで友情が結ばれるんだよ…!」
兄がそう誇らしげに言うと、私はため息をつき、ソファに座った。
ラッキーな事に、私の横には信夫が座っていた。

 信夫は、私より年齢が一つ上。そして兄と同い年。
だが、同じような血が流れているはずなのに、兄とは見た目も中身も全てが違う!
信夫の方がはるかに見た目は良い。性格は見た目通り女々しいが…。
まあ、その容姿の上、結構モテてはいるらしい。…本当に兄と大違いだ。

「ねえ、ゲームは後にして、アレやろうよ!」
「ああ、アレか!」
「久しぶりだなあ、よし、やろうぜ!」
「「オッケイ!」」

「アレ」とは、格闘ゲーム風に1対1で殴ったり蹴ったり投げたりする遊びだ。
小さい頃からしているので、今でも習慣づいている。
女の私には、そんな事をしては危ないのではないか?ともう一人の自分が言うが…喧嘩はギリギリ兄譲りだ。信夫も倒せるぐらいの実力はある。
結果は、1位は兄、2位は私だ。それ以外は、略引き分けだ。

「やっぱり紗枝ちゃんは強いな。」
「そうかな?」
「「うんうん。」」
「お前、男だったら良かったのにな。」
「ええ〜やだよ、絶対嫌だ。」
「っていうか…」
「「もうコイツ男だろ。」」
「んなわけないでしょ!!」
私は従兄弟達全員をバシッと殴った。

 こんな女々しく無い私だが、それでもいい。
というか、それがいい。乙女ぶって一人で孤立しているよりも、馬鹿みたいに殴りあって男らしくいた方がいい。

だから…せめて、私を見てくれればいい…。

 すぐに1日2日3日と過ぎ、私達一家が帰る時になった。
あまっているから。と、祖母に渡された洗剤などの生活用品を抱きしめ、ドアの前にたった。他の従兄弟達は、私達を名残惜しそうに見た。
「じゃあね、紗枝ちゃん。」
「うん。楽しかったよ。またね。」
「学校頑張れよ!」
「「もちろん!」」

「ばいばい…また、来年ね!」
私がそう微笑むと、従兄弟達も嬉しそうに微笑んでくれた。
さあ…帰るとするか。

 父が車に鍵を挿し、ドアを開け、私達は車の中に入った。
私は、名残惜しく祖母の家を眺めた。
「楽しかったなあ…。」
私がそう呟くと、兄は
「あっという間に過ぎたな。」
と、言い返した。私は、兄と同じような事を思っていたから、うん。と頷いた。

「何言ってるの。まだ来年あるでしょ。」
母がそう微笑んだ。私達は、そうだね。と微笑み返した。

 来年も、私は同じ思いを抱えて、この場所に立つだろう。
そして、また来年…再来年もきっと。




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