大切な友達
 私は、大変な現場に遭遇してしまった。
その大変な現場とは、私の友達のゆかりが私の好きな人の健治に告白しているという事だ。
 急いで草むらに隠れて二人を見てみると、二人とも私に気づいていないみたいだ。私はふうと小さくため息をついた。
健治は、できるだけゆかりを傷つけないように、優しく断った。だが、ゆかりはその優しさに気づかず、最低と言い、教室に向っていった。
健治は、待てよ。と、ゆかりの後を追いかけていった。…と言う事は、この場に残っているのは私だけ。
私は小さな声で、待てと言って待つ馬鹿はいないよ。と呟いた。

「ゆかりー。」
 私は、ゆかりが健治の事が好き。という事を、昔から知っていた。健冶も、ゆかりの事が好きなのかと思っていた。
それでも私は健治をあきらめきれなかったから、私のこの思いは、胸に閉まっておこうと思ってた。
健治はゆかりの事が好きではない。と言う事はー…。私にも、チャンスがあるのかな。
違うと、私はすぐ頭を振り、そんな駄目だよ、全然しちゃいけないよ。と、心の中の私を全否定して、私もゆっくりと教室へ向った。

 私はゆっくりと教室の中に入った。案の定、ゆかりは激しく泣いていた。
周りの女子達は、可哀想となげいていたり、そんな奴だと思ってなかったと、怒っていた。
「あ!美由紀!」
ゆかりは、泣きすぎてぐちゃぐちゃになった顔で私の方へ歩いてきた。
そう、私の名前は美由紀だ。お年頃な14歳なはずが、皆からはクールとか、冷静とか言われている。
「どうしたの?ゆかり。」
私は、知らないフリをして聞いた。
「あっあたしぃ、さっきい、健治に、告ったんだあ。」
うん。知ってる。
「それで……はっはは…。私、フラれちゃったんだぁ…。」
ゆかりの言葉で、私の心の中は罪悪感でいっぱいになった。
「もっも…う…。健治なんて…大っ…嫌いだよぉ……。」
少し大げさな気もするけど、やっぱりかわいそうだ。
 私がもしゆかりだったらーこんな大勢の前では泣かないが、きっとその日の夜には、目が腫れるほど泣いてしまうだろう。
ゆかりの力になってあげたいー…。泣き叫ぶゆかりを見て、私はそう思った。

 授業は終わった。だからいつものようにゆかりと一緒に帰ろうと誘ったら、独りで帰りたいと、断られた。
日が暮れて、夕食も食べ終わり、私は部屋の中で一人考え事をしていた。
私は偽善者。友達がこんなにも悲惨な思いをしているのに私は慰める気すらもおきないー…。私は、気持ちを抑えつつも涙を流した。

 そして、ゆかりの告白から数ヶ月後、私はなぜか健治に告白された。だが断った。その理由は、自分でもよくは分からない。
ただ私の心のにごりが消えなくて必死だった為に健治への恋心も消えうせていたんだと思う。

 私はあどけない学校の裏庭で、はあとため息をつくと誰かが私を呼んだ。驚いてあたりを見回すと、屋上でゆかりが手を振っていた。
そして、ゆかりは大きく息をすって、屋上に集まるようにと指示をしてきた。私は急いで階段を上った。校舎内はジメジメしていた。
私が屋上のドアを開け中に入ると、ゆかりは私を見ずに空を眺めていた。

「真由美さ、健冶に告白されたでしょ。」
ゆかりのいきなりの言葉に私は驚いたが、冷静を取り戻し、そうだよ、と私は言った。
「私、まだ健治の事好きなんだ。−…って気づいてたかな?」
うんと、私は、顔を下に振って答えた。
「−そっか。だから、私に遠慮して、健治を振ったの?」
「違うよ。私は遠慮なんてする人間じゃない!」
「そっかー。もし遠慮してくれてたんだったら、ごめんねって言おうと思ったんだけど…。」
「うん。それに…うちはあんなのタイプじゃないし?」
この私の言い方が、いかにもやせ我慢です!というような言い方だった。だが今の私には、この言い方しか言えないだろう。

「あと!私ね。」
「…なに?美由紀。」
 私は、まるでファンの声援に答えるように手を腰に回し、ゆかりのおかげでふっきれたよ!と、大声で答えた。
するとゆかりは、予想以上の私の大声を聞いた為、目をパチパチさせていた。
私はそんなゆかりもお構い無しに、大きく息をすって、
「私、もう嫉妬なんていらない。それ以上に私には欲しいものが沢山あるから!」
と、大声で叫んだ。
「?美由紀、何が言いたいのー?」
ゆかりのそのしぼませた顔に、おもいきり笑ってしまった私は、お返しにもっと変な顔をしてゆかりを笑わせた。

 好きだったアイツに告白されて断った私。少し、もったいないかもなーって思うけど、それ以上に大切な息抜きを手にいれられたから
「まあ、いっか。」
と思う事にする



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