あるところに、一人の少年がいました。そして彼には、二人の彼女がいました。その彼女の名前が、AとBということにしましょう。
Aは美少女で、可愛くて人気者で…。誰もがうらやむ、最高の女の子でした。
Bも美少女ですが、なんででしょうか?いつも、怒っているようなのです。


可愛い彼女と笑わない彼女


 僕は朝の七時半に彼女と学校に行く約束をしているため、待ち合わせ場所に向っている。
嗚呼、今日も憂鬱だなあ。とあくびしていると、おはよう!と可愛いAの声が僕の眠気を覚ました。
「おはよう、Aちゃん。きょ…今日も明るいね。」
僕はAと付き合ったばかりで、少し緊張している。何せ、Aは学校1の美少女と言われているほどだからな!
「あーそうそう、あとおはようBさん。」
僕は、Bを後回しにしたような言い方で挨拶した。Bはツンとした顔でおはよう。と言った。
 なぜかは分からないけど、僕は彼女が二人もいる。理由は簡単。彼女等どちらかを傷つけたくないからだ。
…でも僕自身、本当は二人も彼女なんかいらないと思っている。

「ねえAちゃん、昨日渡した手紙見た?」
僕は、わざとAちゃんにしか分からないような内容の話をした。
「うん!手紙ありがとうね、凄く面白くて笑っちゃった!」
Aは、ニコッと僕に笑った。Aの笑顔は、僕の心をわし掴む。でも、少し快感だったりする。
僕は嬉しくていろんな話をしていたら、だだっとBが走りだし、先に学校へ行ってしまった。
僕はしょうがないなあ、と言った。それに合わせるようにAもやんなっちゃう、と言い、僕らもBを追いかけるように学校へ向かった。

 教室へつくと一時間目は美術らしく、クラスメイトもいなかったので急いで準備を整えて美術室へ向かった。
授業は思うよりすぐに終わり、僕は教室へ向うため、廊下を歩いていた。
その時、Bの笑い声が聞こえた。いつもは見せない彼女の表情に僕は驚き、しばらく隠れながらBを眺めることにした。
Bはクスクスと笑った後、何かふっきれたような顔をしてこう言った。
「あとね、私…今付き合っている彼と別れようと思う。」
Bのその言葉に、僕は頭が真っ白になった。

僕は、走って自分の教室に向かい、机に寝そべった。
僕のどこが悪いのか、ずっと考えた。でも思い出せるのはあの時のBの笑顔だけ。僕は、机をガンッと蹴った。
「僕はAの何処が好きでBの何処が好きなんだ?」

 次の日の放課後、僕はAと別れようと伝えた。もう僕にはAは必要ないからだ。それと…ある可能性にかける事にしたからだ。
案外、Aは内心嬉しそうな顔をしていた。彼女も僕と同じく、今の生活が嫌だったんだろう。

 午後四時の鐘が鳴った。Bは手芸部だからあともう少しで終わる。僕は今日一緒に帰ろう、とBにメールを送った。
ボケーッと空を見上げていたら時間が過ぎてしまい、急いで待ち合わせ場所に向かった。

 息切れしてトボトボと歩いていると、校門の前にはBがいた。そこにはあの時の表情に似た、嬉しそうに僕を待つBの姿。
そんなBを見た時、僕は初めてというものを共感する事ができたのかもしれない。
僕はBに向って手を振り、遅くなってごめんね、と言った。Bは、全然待ってないよ、大丈夫。と言った。

 帰り道、ちょうどそろそろ僕の家に着いてしまう。僕は帰る前に話す事があるのを思い出して、あのさ、と言った。
あまりにも面白い事に、Bも何か言う事があったらしく、ハモッてしまった。だがBが譲ってくれたから僕は遠慮なく先に話をする事となった。
「僕、Aと別れたんだ。」
Bは、えっ!?と、ただでさえ大きい目を、さらに大きく開いた。
「君の事が、気になると言うか…その、大事だって分かったから…。」
僕は恥ずかしくてモジモジと言った。するとBは恥じらいながら、ありがとう、と言ってくれた。
「これで僕の言いたい事は終わり。じゃあ、次はBが言っていいよ。」
僕がそう言うと、Bは顔を赤く染めながら小さく息を吸った。
「あたし、本当は今日ね…別れようと思ったの。でも今はもう、ただ一緒にいたいって思う。」

「あ、あとね。」
「?うん。」
「これからは…その…、あ、あたしだけを見て!」
「へ?」
「ほかの人なんて見ないで、あたしを見て、見て欲しいの!!」
僕はふとBの手を見た。するとその小さな手は震えていた。きっと、勇気を振り絞って言ってくれたんだと思う。
そして、分かった。約束するよ。と、言って、Bの頭をなでた。

End



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